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日時:2013年7月20日(土) 天候:晴れ 気温:28℃ 会場:日本サイクルスポーツセンター コースコンディション:ドライ 主催:財団法人 日本自転車競技連盟(JCF) 主管:日本マウンテンバイク協会
今シーズン最も重要視しているレース 今年のJシリーズも1戦の欠場を除き、2位以下に差を付けて優勝する事が出来ていた。 全日本選手権には皆、特別な気持ちで臨む大会なので、ライバルになる選手も頭に浮かぶ中、やはり今年の全日本ロードとT.Tで圧勝した與那嶺選手の参戦がキーポイント。 與那嶺選手は、SY-Nak cabinでも合宿等で長期間接しているので、彼女の自転車に取り組む姿勢や目指している物などは知っているし、とても応援している1人であるけれど、レースであればやはり競う事になる。 リエ選手の9連覇中は、自分は自分の精一杯を出し、選手権は強い物が勝てば良いと思っていた。 しかし今回は自分の中で奇跡を起こしてでも優勝したいという気持ちが強かった。 なぜならこれは全日本MTB選手権だから MTBレースとはどういうものなのか? 私もまだまだ、解っているつもりは無いけれど、これだけ長くやっていれば解ってくる事は多いし、自分自身をたくさん成長させてくれてきた(今も進行形)。 與那嶺選手は、フィジカル的な能力が今の日本の女子自転車選手の中では抜きん出ているが、自分のアドバンテージは今まで生きてきた年数と経験。これだけは大きく優っているもの。 すでに昨年のMTB大会で、その強さは目の当たりにしているし、今年は更に成長しているけれど、まだ彼女はレース経験は少ない。 そんな事からも、勝てるチャンスというのが必ずあると考えていた。 私がロードの全日本チャンピオンになったのが1993年。 その後MTBに転向して、3回のタイトル獲得を挟み、2003年にもMTBチャンピオンになり、今年は2013年。 誰にも言っていなかったけれど、10年ごとにやってくるものが今回もやってくる事にひそかに期待もしていた。 1ヶ月程前にFBで、ある投稿が妙に自分の心にヒットした。 自転車とは全く関係がないのだけれど、「奇跡」に関する投稿だった。 その日は天気が悪くスーパームーンが見られない状況だったのだけど、奇跡を起こす条件が揃い、それを確信していたその方は実際にスーパームーンを見る事が出来た。 それまで私は「奇跡」という言葉があまり好きではなかったけれど、自分が持っていた「奇跡」の概念が変わった気がした。 「奇跡」を起こす条件を揃えていけば「奇跡」を起こせるのかもしれない。そうして起こしたものが「奇跡」と呼べるのかは解らないけれど、どんな時に奇跡は起こるのか、なんて色々考えてみたりもした。 私の最近のFBを見て頂いている方は解ると思うけど、そんな投稿が多くなっていった。 そして今回、自分の中で奇跡を起こす3大ポイントはこれにたどり着いた。 ☆信じる事 ☆力の結集 ☆やさしい気持ち 「力の結集」に関しては、自分の力を結集する事は勿論だけど、周りの様々な物が発するエネルギーや、自分に送って貰っているエネルギーをどれだけ自分の力に出来るか。 これもあるトレイルランナーの方の言葉 「僕は自分自身には力がないんですよ。ただ人や景色などから力をもらう能力が、ほかの人よりはあるのかもしれない」 がヒットした。 自分も同じような事を考えていたから 「やさしい気持ち」に関しては、ユーミンの歌が浮かんだから こと、レースとは相反するように思えるけれど、奇跡ってここが欠けると起こらないよな、って考えた。 間違えてもらっては困るのは、この奇跡は相手のトラブルを望むものではない。 走りで相手にプレッシャーを与える事は戦術としてレースの中に含まれている事だけれど それと、今私が凄く興味を持っているネイティブアメリカンの教えから、「考えるな、感じろ」を大切に自然の中で感覚瞑想をする事を始めてみた。 それもまだ、初めて間もないレベルだけれど、ここ1ヶ月位に起こった起こした事が何か上手く繋がってきているという感覚があった。 そんな所がこれまでのレースとは少し違った方向からのレースへの取り組みだった。 それはそれとして、今シーズンの最大の目標であった全日本選手権に向けて、フィジカル的にもここにピークを持っていけるようにやってきた。 出来る事は限られているけれど、その中で自分なりには上手く持っていく事は出来た。 10日程前に富士見のコースで少しだけでも男子のエリート選手達と走れた事、1週間前にコースの下見が出来、そこでクラブ員達と一緒に走れた事、コースの動画を見ながら何周もイメトレ出来た事、それらはとても自分にプラスになった。 いつものように、平スポで身体の最終メンテも行って頂き会場に入り、レース当日は路面状況や天候など、最高のコンディションが整えられてのスタートとなった。
そしてスタート! ほぼ予想通りの3番手でのレーススタート。 スタートループを抜け、本コースに入って間も無く2番手に上がり、前を行く與那嶺選手を追う展開となる。 やはり彼女の走力はレベルが高く差は開いていく。 楽なレースに持ち込ませないために、プレッシャーを掛けるために、少しでも差を開かせないように懸命に走る。 1周目のフィードゾーン手前で與那嶺選手がチェーンを切ったとの情報が入る。フィードゾーンで修理をしている彼女を横目に見ながら、私は私の走りに集中する。 彼女は必ず来る。アドバンテージはどれだけか解らないけれど、チャンスを絶対にものにしようと自分のレースを続けた。 微妙なアドバンテージ そしてドンドン縮まってくる彼女とのタイム差。 ![]() Photo by H.Ito ラスト2周に入り、すぐ後ろまで彼女は迫っていた。 ここからは、自分自身が研ぎ澄まされた感覚になっていった。 これまで何戦も何戦もレースを戦ってきた中で、競り合いになった時に何度か味わっている感覚が久々にやってきた。 オフィシャルフィードを過ぎた後の勾配のキツイ上りを上りきる手前で彼女が背後に付いた事が解った。後ろなど見なくても解る。 そこからは、それをしなければ負けるという図式が勝手に描かれる。 考えているわけではないけど、こういう状況と感覚になった時はそれが出来る。 相手の力が上でも負ける要素を消し続けてゴールまで行ければ、勝利を掴める。 まずは、これから迎える2つの下りを前で入る事。それまでに相手に前に出られたら勝機は遠のく。 ここにきてもう自分のペースでは走れないけれど、例え保てないペースでもやれるだけの事はやるしかない。 まずはそれが出来た。 2つ目の下りを終えて少しだけ差を着ける事が出来たようで川を越え先行する。ここからフィードまでの区間で抜かれる事は確実だろうけど、そこでついて行く事。 それも出来た。 そして2人でラスト周回に入る。 スタンドに向かう短い2つの上り。もうすでにいっぱいいっぱいであった私はどうしても付いていく事は出来なかった。 スタンドからオフィシャルフィードを抜けて上り、下りに入るまでの区間で差を最小限にとどめられれば、まだまだチャンスはある。 大切なこの区間が、どうしても出来なかった。進まなかった。 身体は動かないが、出来る限り差を最小限にすべく走り、前を追う。 下り区間を終えて川を渡り、少し詰めたであろう與那嶺選手の背中が見える。 最後の最後のコーナー、そしてゴールまで何があるか解らない。 少し近くなる背中を追って全力でゴールまで駆け抜けた。 ![]() Photo by H.Ito 負けた。 チャンスを与えてもらいながら、それをものに出来ず、本当に悔しかった。 でも、このレースでやれる事は総てやった。 全力を出せた。 信じて、そしていろんな力を結集させて自分の力に出来た。いっぱいいっぱいパワーを貰って、奇跡に近い走りが出来たのではないかと思った。 こんな事が出来るんだと思った。 與那嶺選手は強かった。一緒に走った選手、見ていた人達、皆がそれを見ていた。 あの状況でも勝つ、それが出来た彼女は強かった。 すっごく悔しい気持ちはあったけど、清々しい結末だった。 ここまでは・・・ その後、與那嶺選手がバイクを直す際にルールに反する行為があったようで、もしかしたら順位が変わる可能性があるという事を告げられた。 詳しい事はよく解らなかったけれど、正直私はこのまま何も変わらないでいて欲しいと思っていた。 ここから先は自分がどうこう出来るものではなく、審判が下した結論に従うだけだった。 結果、與那嶺選手が降格となり、私が全日本チャンピオンという事になった。 正に奇跡の全日本チャンピオンになってしまったけれど、出来る事ならこっちの奇跡は起こって欲しくなかったな、とも思っていた。 最初の感覚では、妙なおまけが付いてきたな、という感じだった。 でも、これは自分の中でしっかりと消化して、時間が経つにつれてとても重要な事に思えてきた。「おまけ」なんかではなく、この奇跡こそ重要なものが込められていると。 1つ目は、何だか良く解らないけれど、自分が愛するもの、自分を愛してくれているもの、本当に総てのものが結集してこのタイトルがとれたという事。 レースで勝ったという気持ちは無いけれど、何か別の嬉しさというか、別の所ですっごく嬉しい気持ちもあるという事。 2つ目は、ここから1年間このチャンピオンジャージを来てXCOのレースを走るという事の意義。 多くの人達にとって何か後味も悪く、痛すぎる罰則ではあるかもしれないけれど、やはりUCIルールにのっとって行われる重要な大会でこうした結論が下された事に対し、関係者は真髄に受け止める必要があると思っている。 機材スポーツである以上、どうしても避けられない機材トラブルなどはあるけれど、もともとMTB競技がどういうものであったかを考えたりすると、基本総てを手助け無しに1台の自転車と身ひとつで戦うもの。 昔と今を比べる事はナンセンスかもしれないけれど、MTB競技というもの自体をもう一度見直す良い機会かもしれないと思う。 で、チャンピオンジャージ。 このジャージを着る事の重みはよく知っているつもりだ。 私は今は、世界で走る事も出来ないし、世界を目指して走る努力も出来ないし、目指す気持ちも無い。 このチャンピオンジャージを着用しても、レースに臨むスタンスは今と何も変わらないと思う。 このレースで勝ったとも思えない。 そんなんで、着用して良いの?と自問自答。 色んなチャンピオンがいても良いのかな。 今は総てを受け入れて、私は誇りを持ってこのチャンピオンジャージを来て1年間レースに臨みたいと思っている。 チャンピオンジャージを着た私を見て、色んな事を感じて頂ければと思う。 だから、とびきりカッコいいチャンピオンジャージWAVE ONEさん宜しくお願いします(^^ 文章が長くなってしまいました。 応援して下さっている皆様、本当にありがとうございました。 そしてこれからも宜しくお願い致します。
2013全日本MTB選手権クロスカントリーゴールハイライト【シクロチャンネル】 |
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◆Resalt
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